アウトプット その1

「ヴァシランド」と「アウトプット」はどんな関係でしょうか。

社会におけるコミュニケーションの基盤に共感があります。共感は自然発生的に発生することもありますが、これまでの日本では、「同じで良かったね」といような心理から生まれる「同情」に似た感情でした。それが悪いわけではありません。ただ、よりよく生きる生き方を選び、生きて生きやすい社会にしていくには、共感の幅を広げていくことが必要です。

これまであまり意識されてこなかった共感は英語で「エンパシー」と言われる感覚で、対話的な態度によって生まれます。そして、対話に必要なことは、自分の考えや感情を適切に表現することです。

伝えるために話したり、書いたりします。これが基本です。そのうえで、動画やその他、芸術表現のようなものまで伝える技法は沢山あります。

私は2001~2010年の間に何度かフランスなどで自分の美術作品の展覧会を開催しました。フランス人は感じたことを言葉で表現できなかったら、それは感じていないのと変わらないと言います。日本人の場合、美術作品を作る人たちは「作品を観れば分かる」というようなことを良く言います。どちらが正しいということはありませんが、物事の理解と、コミュニケーション(意思の疎通)は別です。作品を観たら、誰かとコミュニケーションを取りたいという欲求がフランス人の方がはっきりしているということです。

フランスでは、社会の歴史的な経緯から文化的背景が異なる多様な人たちが暮らしています。フランス人とは、「自由」「平等」「博愛」をはじめ価値を共有している人たちのことで、それを共和主義といいます。ですから、共有する価値は同じですが、それ以外のところは個々人の価値が尊重される社会でもあります。ですから、人と同じであることはそれほど重要ではありません。肌や目、髪の毛の色など多様ですから、同じという感覚はむしろ珍しいといっていいかもしれません。

日本も近代化が進展し、江戸~昭和初期にくらべ、自由度の高い社会になりました。外見は相変わらず似ていますが、価値観の多様性を尊重することが望まれるようになりました。

また、高度経済成長期からバブル経済を経て、皆が同じものを購入するような社会ではなくなりました。必要最低限の物資は調達できて当たり前の社会です。逆に、最低限が満たされる中で、自分のリアリティ、自分らしさといったものが、モノやサービスの消費において重要になっています。これは、ひとりひとりが同じではないことを前提とすることが望ましいと思うようになってきたということです。

つまり、欧米社会の様に、自分の意思や考えを言葉にして伝えられることがコミュニケーションの前提となる社会に日本の社会は似てきているということです。

今回は、基本のうち、そもそも考えや思いを伝えるとはどういうことかについて、技術的な面から考えます。通常のコミュニケーション、芸術表現ではない場合を前提に進めます。

書く・話す、どちらアウトプットも論理的に表現することが大切です。平たく言えば話の筋が通っているということです。

小池陽慈さんによると、「話題提示」→「論拠①」→「論拠②」→「論拠を整理」→「自分の主張」という構成が基本です。できるだけ平易に書きすすめ、比喩表現や強調表現などのレトリックを適宜使うことで、読み手が理解しやすくなります。

アウトプットにはいくつか目的があります。スティーブン・E・ルーカスは、パブリック・スピーキングの手法として、それを「情報の伝達」「説得」の代表的な型にまとめています。「説得」の場合にもっともよく使われる型として「モンロー説得法」を挙げています。これは、①「注目」→②「必要性」→③「解決策」→④「視覚化」→⑤「行動」という流れになります。例示として不動産賃貸に関する法案制定を上げ、①「身近な問題」→②「問題の一般化、社会的課題の指摘」→③「法案骨子」→④「解決後の生活イメージ」→⑤「署名嘆願しよう」と説明しています。

金川顕教さんによると、アウトプットには「伝える」「伝わる」「共感される」「行動を喚起する」という4つの段階があります。「伝える」は、自分の言葉で表現すること。「伝わる」は相手に分かるように表現すること。相手の読解力をあてにせず、簡単な言葉を使い、接続詞などを使って、話の流れが分かりやすくなる工夫をします。「共感する」は、相手の属性を明確にして、その人の立場にたった文章にするなど、話に入りやすくします。「行動を喚起する」は、読み手の読み手が読むことの目的に対して実感すること。「儲かる」「痩せる」など機能的ベネフィットが満たされる、「美味しい」「ワクワクする」などの感覚をイメージできて感情的ベネフィットが満たされるような文章にします。

上記の例は、「かわいい!」「うれしい!」「頭にくる!」などの感情表現や、「今日な、〇〇があってさぁ」などの日常会話とも少し違います。自分の価値観を人に伝える場合に、どのような意識で文章を構成すると効果的に伝わるかということがポイントでした。次回は、アウトプットすることはどういうことかについて、その意味について考えます。

【参考文献】

・「14歳からの文章術」

  小池陽慈著、笠間書院、2020/10/30

・「超スゴイ!文章術」

  金川顕教著、すばる舎、2019/4/25

・「伝え方の教科書」

  スティーブン・E・ルーカス著、SBクリエイティブ、2016/12/5

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