対等という感覚

「弱さを引き受ける」ことが、共感につながると、前回に述べましたが、そのことについて、もう少し何か補足的な説明をしたいと思います。

それは、自分の弱さに気づき、弱さを受け入れることで相手の立場を理解しやすくなるということです。そして、それがお互いの価値が対等であると捉えられるような意識の在り方につながっているような気がします。

誰もが「弱さ」を持っています。しかし、私たちの暮らす現代社会の文化はそれを排除する、あるいはそれを覆い隠しています。この文化を、ブルネー・ブラウンさんは「恥」「比較」「関わる意欲の喪失」の3つに類別しています。

私の理解では、「恥」は学校や組織で大勢の前で叱責する、つまり、学業や研究、仕事の業績評価と人格を同一視すること。「比較」は本人または周囲の人がメディアの情報などを基準に他者と能力の巧拙や容姿の美醜を比較すること。「関わる意欲の喪失」は情報の氾濫(自分が消化しきれない量の情報に接触すること)によって、自己否定的な態度になる、あるいは十分に自己肯定感を育めない心理状態に自らを追い込んでしまうことです。

氾濫する情報に気を取られていると、益々、自分の弱さを受け入れにくくなります。さらには、誰もが「弱さ」を持っていることに気づくことができなくなります。

毎日のように大量の情報と接する私たちは、どのように暮らせば良いのでしょうか。

最近、デジタルデトックスという言葉をときどき聞くようになりました。1週間や10日間など期間を区切ってメディア断ちすることです。ネットサーフィンやSNS、携帯電話など、人それぞれの事情によって内容は多少異なりますが、インターネットやマスメディアが発信する情報と距離を取って、自分の生活に意識を向けます。

また、IT業界を中心にマインドフルネス瞑想も注目されています。瞑想することで、自己を客観的に見つめる意識を育み、情報に振り回されないように訓練します。

瞑想法にはいくつかルーツがありますが、仏教の坐禅はその1つに上げられます。

日本の仏教が世界に紹介されたのは1893年、アメリカのシカゴで開催された万国宗教者会議でした。その後2つの世界大戦を経て、さらにベトナム戦争を契機に欧米社会は非西洋の文化に関心を寄せ始めました。インドのヨガやネイティブ・アメリカンの伝統などに関心が高まり、仏教の一宗派の禅宗が、日本の禅「Zen」として認識されるようになりました。仏教の真理は「如」という文字で表される唯一性です。概念として2分できない状態です。そこには善悪というような二元論は存在しません。ただ在るがままにある状態です。「私」「あなた」の区別がなく、すべてが1つの状態「ワンネス」です。

(確証はありませんが、ビートルズの曲「imagen」に出てくる「the world will be as one」の「one」は「如」と近い感覚だと私は感じています。また、アップル社の創業者スティーブ・ジョブズさんが禅に傾倒していたことも良く知られています。彼に影響を与えた仏僧、鈴木俊龍さんは1960年代に坐禅の実践を説いて、坐禅の実践「只管打坐」を中心的な価値とする文化を米国社会に根付かせ、その後世界各地に波及していきました)

ワンネスの状態になるのは長い時間が必要でしょうが、マインドフルネス瞑想という瞑想法で、ある程度練習をすれば、マインドフルネスの状態になれるようです。

マインドフルネスは仏教用語、パーリ語の「サンマ・サティ」、日本語では「気づき」という言葉で表されます。仏教の重要な教えである「中道」の具体的な内容の八正道の1つです。「中道」とは、善悪のような二元論的な価値に対して、善でもなく悪でもない立場に立って世界を把握することです。

メディアなどが発信する情報が「恥」「比較」「関わる意欲の喪失」という文化を強固にしているのであれば、それと距離を取ることで、そうした文化の影響を減らすことができます。自他の違いや差異を乗り越えるのは大変なように思えますが、瞑想によって情報を判断する意識を変え、「気づき」によって、それがなんとかなる可能性が示されています。

誰もが同じ生身の人間だということに気づくことができたとき、価値観が違う相手であっても、「弱さ」をもった1人の人として共感を持つことができるようになると思います。多くの人たちがそうした意識を持つようになれば、様々なことに積極的に挑戦できる社会になります。

【参考図書】

・「本当の勇気は『弱さ』を認めること」

 ブルネー・ブラウン著 サンマーク出版 2013/8/30

・「まがったきゅうり 鈴木俊龍の生涯と禅の教え」

 デイヴィッド・チャドウィック著 サンガ 2019/12/1

・「禅マインドビギナーズマインド」

 鈴木俊龍著 サンガ 2012/7/1

0コメント

  • 1000 / 1000