自己実現

 あなたは「マズローの欲求段階説」を知っていますか?

 ウイキペディアによると「アメリカの心理学者アブラハム・マズローが、『人間は自己実現に向かって絶えず成長する』と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化したものである。」と説明されています。マズローさんは、食欲・性欲などの「生理的な欲求」から「自己実現の欲求」までを段階的に説明しています。また、没後に彼の論に対する批判もあり2000年代に入り、西洋的な価値観の影響が強く「一般原理として採用することは到底できない」とされています。日本は西洋的な価値観に大きく依存しているので、ある程度はマズローの説が当てはまります。

 私がこの説を知ったのは5年以上前だと思います。いろいろな本で引用されていて、何度も見ているうちに、なるほどなぁと思うことがあります。それは、それぞれの段階の中にも、またマズローさんがいうような5段階があるように思えるということです。

 例えば、食欲では、生命維持のために必要な食べ物を摂取する段階と、同じ目的でも、より美味しい食べ物を食べたいという欲求があります。更には、有機栽培の食品だとかいろいろなこだわりが芽生えてきます。そのこだわりが、健康に向けられる場合と、贅沢に向かう場合とあります。健康に意識が向けられれば、基本的な欲求のようにも思えますが、慣行農法の野菜よりは有機栽培の野菜の方が贅沢な印象がないとも言えません。

 高次の欲求となる自己実現についてはどうでしょうか。スーパーで手に入る一般的な食材でも、十分に満足できる味わいを作ることができます。手間暇かけて作った料理は、それ自体が自己実現の要素を含みます。食欲は生理的な欲求ですが、それがどのように満たされるかによって、同時に自己実現の欲求を満たすことができるのです。

 そのようにして考えると、どの段階にもさらなる階層があることに気づきます。逆に言えば、5段階はどれも、人にとっては、基本的な欲求という側面を持っています。

 マズローの説はピラミッド型に図解されますが、説そのものは欲求の単純な階層を表してはいません。その意味で、何が満たされれば、人は満足できるのか。改めて考える余地があります。

2021年に世界の人口は77億人余りです。この後100億人くらいまで増加するといわれています。そうした中で、例えば、食品について、何を基準に基本的な欲求と考えたらよいのでしょうか。おそらく、発展途上国の人と先進国では、それが意味するところは違ってきます。世界人口を養うには、遺伝子組換え作物を食べればなんとかなるとスティーブン・ピンカーさんが指摘しています。一方で、日本の社会でもそうですが、遺伝子組換え作物を原料とした加工食品に対する根強い抵抗感があります。私もできれば、口にしたくない食べ物です。

この遺伝子組換え作物のように、私たちは日常生活において、様々なことについて、自分の意見を持ち、一線を引くように心がけることが大切です。「身の丈消費」という言葉をひと頃よく耳にしました。自己実現の在り方も人それぞれで、大きなピラミッド、小さなピラミッドがあっていいのだと思います。

【参考図書】

・「21世紀の啓蒙」

 スティーブン・ピンカー著 草思社 2019/12/18

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